抗がん剤感受性検査の利用例
症例14(犬、11歳、避妊メス)
病歴:
手根部の腫脹部位にFNAを行ったところ、肥満細胞腫と診断された。
その後、病変部を一部切除し、病理組織検査ならびに抗がん剤感受性検査を実施。
病理組織診断:
肥満細胞腫グレード I(Kiupelらの分類における低グレード)
左:肥満細胞に類似する円形細胞のシート状増殖が認められる。 右:腫瘍細胞の異型性は軽度であり、核分裂像はほとんど認められない。
感受性検査結果:
ドキソルビシン、イマチニブの感受性が低く30~40%の生存率の抑制であったが、トセラニブ処置に対しては約70%の抑制効果が認められた。
培養直後の細胞観察像: 増殖スピードは平均的
治療:
トセラニブ15mgを2~3日に1回投与を行った。
予後:
約4か月後現在も生存しており、完全奏効の様子が見受けられる。
症例15(犬、14歳、去勢オス)
病歴:
膀胱移行上皮癌との診断を受け、切除を行ったものの再発が認められたため、今回抗がん剤感受性検査を実施した。
BRAF遺伝子、HER2遺伝子ともにポジティブの症例である。
感受性検査結果:
作製したオルガノイドにおいては、ラパチニブの感受性がかなり高く、トセラニブについても濃度依存的な抑制効果が認められた。
培養後の細胞観察像: 増殖スピードは平均的
治療:
ラパチニブ錠1/3錠(21mg/kg)、フィロコキシブ錠(25mg/kg)を1日1回、連日投与を行った。
予後:
治療開始後4カ月で、PR (部分寛解)となっている。また抗がん剤による有害事象・副作用は見られていない。
症例16(犬、14歳、去勢オス)
病歴:
脾臓の血管肉腫の疑いがあり、画像診断で肝臓への転移も認められた。手術により脾臓を摘出し、弊社にて病理組織検査と抗がん剤感受性検査を実施。
病理組織診断:
血管肉腫
左:内皮細胞が血管を模倣する不規則な管腔構造等を形成しながら増殖している。 右:腫瘍細胞は中程度の異型性を示し、充実性に増殖する所見も認められる。
感受性検査結果:
アクチノマイシンD、カルボプラチン、トセラニブへの感受性が高く、90%ほどの抑制効果が認められた。その他の薬剤に対しては抵抗性を示す結果となった。
培養後の細胞観察像: 増殖細胞の存在を確認
治療:
トセラニブ(3.1 mg/kg)、週3回×2週間、アクチノマイシン(0.75 mg/m2)、カルボプラチン(250 mg/m2) を順次投与。アクチノマイシンは副作用発現のため、比較的初期に投与を中止。
予後:
治療開始後半年で、肝臓腫瘤の完全寛解を認める。
症例17(犬、3歳、去勢オス)
病歴:
肥満細胞腫(グレードII、c-kit変異なし)の診断により、病変部の切除とビンブラスチン計8回投与の結果、完全寛解となった。その後6か月間トセラニブにて維持を行ってきたが再発し、ビンブラスチンを再開。
感受性検査結果:
投与歴のあるビンブラスチン、トセラニブの抑制効果は約50%程で抵抗性を示した。一方でイマチニブに関しては90%程度の抑制効果が認められた。
培養後の細胞観察像: 増殖スピードは早め
治療:
イマチニブ10mg, 1日1回投与を開始した。
予後:
副作用の発現もなくイマチニブ投与後1カ月で完全寛解し、検査後4か月後現在も寛解状態を維持している。