抗がん剤感受性検査の利用例
症例26(猫、8歳)
病歴:
回盲部腸管膜リンパ節の腫大及び大網への腫瘍の転移および癒着が認められ、大網の一部を採材して病理組織検査を実施した。
病理組織検査の結果、悪性リンパ腫(NCI-WF分類;中間グレード以上、臨床的ステージ2以上)と診断されたため、抗がん剤感受性スクリーニング検査を行った。
感受性検査結果:
培養した細胞ではカルボプラチン処置に対して80 %ほどの抑制効果が認められた。シクロホスファミド処置では60 %ほどの抑制効果が認められた。その他の薬剤に対しては抵抗性を示した。
培養後の細胞観察像: 増殖細胞の存在を確認
治療:
検査結果が出るまでの間、L-アスパラギナーゼとプレドニゾロン 1mg/Kg/SIDの投与を行い、その後カルボプラチン 200 mg/m2及びプレドニゾロン 1mg/kg/SIDの投薬を行った。
予後:
抗がん剤投与中の転移は認められず、超音波検査で腸間膜リンパ節の縮小が認められた。3回目のカルボプラチンの投薬した数日後に、食欲の低下・嘔吐が認められたことから対症療法を実施するもあまり回復せず治療を中止し、自宅での療養を行っている。
予後:
治療開始から明らかな副作用や転移は認められなかったが。腫瘍の増大が抑制されず、検査から1か月後に死亡が確認された。
症例28(犬、12歳、オス)
病歴:
2か月前から血尿があり、他施設でBRAF遺伝子変異陽性の前立腺癌と診断された。膀胱内に2か所のmassがあり前立腺の石灰化も認められたため、カテーテル生検を行い、セルパックによる病理組織検査と抗がん剤感受性スクリーニング検査を行った。
病理組織診断:
悪性上皮性腫瘍(尿路上皮癌もしくは前立腺癌)
セルパック標本の強拡大像(×400):核異型や構造異型を示す上皮性細胞が相対的に多数認められる
感受性検査結果:
培養した細胞ではラパチニブ処置に対して70 %弱の抑制効果が認められた。トセラニブ処置では50 %弱の抑制効果が認められた。その他の薬剤に対しては抵抗性を示した。
これまでの症例と比較して、化学療法剤への顕著な抵抗性が認められた。
培養後の細胞観察像: 増殖細胞の存在を確認
治療:
ラパチニブ・13.6mg/kg/dayで投薬を行った。
予後:
血尿が寛解、副作用の発現もなく、30 %以上の病変部の減少が見られた。投与後4カ月時点で部分寛解の状態を維持していた。
症例29(犬、11歳、オス)
病歴:
2か月以上前から上顎の歯肉にmassが認められ、乏色素性悪性黒色腫と診断を受けた。完全切除が困難であったため、残存した腫瘍組織を切除し、抗がん剤感受性検査を行った。
感受性検査結果:
培養した細胞ではカルボプラチン、トセラニブ処置に対して濃度依存的な抑制効果が認められた。カルボプラチンでは準高濃度で60 %、最高濃度処置では80%ほどの抑制効果が認められた。トセラニブでは準高濃度で40 %、最高濃度処置で90 %ほどの抑制効果が認められた。
治療:
トセラニブの投薬治療を開始したが、下痢のため中断。その後、カルボプラチンの投与を行った。
予後:
治療開始後5カ月時点で局所再発や転移は認められていない。